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60分で理解する『ストーリーメーカー 創作のための物語論』




【60分で理解する】 


はじめに
母語でない外国語を学ぶときに「文法」を学ぶように、「物語の文法」を知る必要がある。
本書を考案する一つのきっかけは『ドラマティカ』というシナリオ制作支援ソフトだった。



1. 創作のための五つの物語論

○物語の基本中の基本は「行って帰る」である
「欠落したものが回復する」、「行って帰る」という二つのパターンがある。
「行って帰る」物語では「境界線」を超えて「向こう側」へ行くということが重要である。
「いないいないばあ」も「行って帰る」物語の原初的な形である。


○物語を構成する最小単位とは何か
映画では「カット」を最小単位とし、その「組合せ」によって成り立つと考える。

それは「水」と「目」という象形文字の組合せで「泪」というもともとの文字のなかに存在していなかった新しい「意味」を生じさせる、というモンタージュである。
プロップが発見したのは、昔話の最小単位である「機能」である。これは「登場人物たちの行為」によって定義される。
登場人物の分類としては、
主人公、偽の主人公、敵対者、贈与者、助手、王女と王、派遣者、追跡者、である。
オビ=ワンとヨーダは「贈与者」、ハン・ソロやチューバッカは「助手」です。
「派遣者」はミッションを与える存在である。
次に31の機能を確認する。
1 不在 (「主人公」ないし「対象者」の家族の成員の一人が家を「不在」とする)
2 禁止 (「主人公」または「対象者」に「禁止」を課す)
3 違反 (「主人公」ないし「対象者」は「違反」する)
4 情報の要求 (「敵対者」は「主人公」に「情報の要求」をする)
5 情報入手 (「敵対者」は「情報入手」する)
6 策略 (「敵対者」は「主人公」ないし「対象者」に「策略」を仕掛ける)
7 幇助 (「主人公」ないし「対象者」は「敵対者」を結果として「幇助」する)
8 加害あるいは欠如 (「敵対者」は「主人公」ないし「対象者」に「加害」「欠如」を生じさせる)
プロップは8番目の機能を最も重視する。それ以前は昔話の予備部分である。
9 派遣 (「依頼者」は「主人公」を「派遣」する)
10 任務の受諾 (「主人公」は「依頼者」に「任務の受諾」をする)
11 出発 (「主人公」は「出発」する)
12 先立つ働きかけ (「贈与者」は「主人公」に「贈与」に「先立つ働きかけ」をする)
13 反応 (「主人公」は「反応」する)
14 獲得 (「主人公」は魔法の手段を「獲得」する)
15 空間移動 (「主人公」は「呪具」ないし「呪力」の援助で「空間移動」する)
16 闘争 (「主人公」と「敵対者」は「闘争」する)
17 標付け (「主人公」と「敵対者」もしくは「対象者」から「標付け」をされる)
18 勝利 (「主人公」は「敵対者」に「勝利」する)
19 加害あるいは欠如の回復 (「主人公」は「加害あるいは欠如」の状態を「回復」させる)
20 帰路 (「主人公」は出発してきた場所に戻るため「帰路」につく)
21 追跡 (「帰路」についた「主人公」を「追跡者」が「追跡」する)
22 脱出 (「主人公」は「追跡者」から「脱出」する)
23 気づかれざる帰還 (「主人公」は「気づかれざる帰還」をする)
24 偽りの主張 (「偽の主人公」が「偽りの主張」をする)
25 難題 (「依頼者」は「主人公」に「難題」を課す)
26 解決 (「主人公」は「難題」を「解決」する)
27 認知 (「依頼者」あるいは「対象者」は「主人公」を「認知」する)
28 露見 (「偽の主人公」の正体が「露見」する)
29 変身 (「主人公」は「変身」する)
30 処罰 (「依頼者」は「偽の主人公」を「処罰」する)
31 結婚ないし即位 (「主人公」は「対象者」と「結婚」し、もしくは「即位」する)


○英雄は誰を殺し大人になるのか
オットー・ランクの『英雄誕生の神話』
1 英雄は、高位の両親、一般には王の血筋に連なる息子として生まれる。
2 彼の誕生の前後には両親に様々な形の困難が伴う。
3 予言によって、父親が子どもの誕生を恐れる
4 子どもは、箱、籠などに入れられて水辺に捨てられる。
5 子どもは、動物やその社会の中で身分の低い人々によって救われ、主人公は本当の両親を知らず育つか仮の親によって養われる。
6 おとなになって、自分が貴い血筋の持ち主、貴種であることを知る。
7 子どもは、生みの父親に復讐する。
8 子どもは認知され、最高の栄誉を受ける。


○世界中の神話はたった一つの構造からなる
ハリウッド映画のストーリー開発。
1 コンセプトアート (作品イメージのイラストレーション)
2 ストーリースケッチ (場面のイラストレーション)
3 ストーリーボード (ストーリースケッチの組合せ)
4 ストーリーリール (完成したストーリースケッチに暫定的なアフレコを付す)


キャンベルの三幕構成
出立
1 冒険への召命 (「幼年期の終わり」を告げるものが現れる)
2 召命の辞退 (「大人になる」ことは怖い)
3 超自然的なるものの援助 (「母性」のもう一つの形である「庇護者(贈与者)」)
4 最初の境界の越境 (主人公は自覚して決意する。「境界守」がいる。)
5 鯨の胎内 (境界のイメージは母胎のイメージと重なりあう)
イニシエーション
1 試練への道 (主人公の成長を条件付ける試練。現代「物語」の中心的部分。)
2 女神との遭遇 (女神との関わり)
3 誘惑者としての女性 (母子相姦による一種の「母殺し」。精神的自立を行う)
4 父親との一体化 (「父殺し」による一体化。旧世代の抑圧に対する新世代からの反撃)
5 神格化 (主人公は「完全な姿」に変容する)
6 終局の報酬 (新しい何か「霊薬」を入手する)
帰還
1 帰還の拒絶 (帰路への何らかの困難の発生)
2 呪的逃走 (「贈与者」からのアイテムの作用)
3 外界からの救出 (「向こう側」での主人公の死)
4 帰路境界の越境 (こちらに戻ってくる)
5 二つの世界の導師 (主人公の自己実現の完了に向かう)
6 生きる自由 (主人公が「大人」になる)



ハリウッド映画の物語論
「物語」とは「一つの論理構成」である。
結局のところ、一つの表現が文化圏や国境を超えて届くのは何より「構造」の部分である。
1 日常の世界 (写真のなかの夫)
2 冒険への誘い (「死者」や「依頼者」によって、そこにとどまれないことを告げられる)
3 冒険への拒絶 (「恐れ」に打ち勝つプロセスの第一歩)
4 賢者との出会い (オビ=ワンのような存在)
5 第一関門突破 (主人公が「境界」を超える。「門番」の存在。)
6 仲間、敵対者・テスト (敵対者の提示、仲間の固定)
7 最も危険な場所への接近 「日常」から最も遠い場所が常に旅の目的地である)
7' 複雑化 (主人公の失敗。状況の悪化)
8 最大の試練 (死の危機)
9 報酬 (外的な目的としての「報酬」の入手)
10 帰路 (「こちら側」に戻る。「呪的逃亡」。)
12 再生 (最後の局面。精神的な最大の苦しみも時にはある)
13 帰還 (「犯人」が捕まって「日常」の平穏が戻る)


2. ストーリーメーカー

主人公の内的な領域を設計する
1 まずあなたがこれから書こうとする物語のうち、頭のなかに現状あるものをどのような形でもいいのでとりあえず書いて下さい。
2 そのプロットを一文で言い表すとどうなりますか。
3 あなたがこれから書こうとする物語の主人公について思いつくまま記して下さい。
4 あなたの主人公が現在抱えている問題を「主人公は☓☓☓が欠けている状態にある」という形で表現して下さい。欠けているものをまず具体的に書き、そして、次にそれが何の象徴であるかをひと言で記して下さい。
5 あなたの主人公の「現在」について設計して、一番イメージに逢うものを選択してください。
A まだ、自分の運命を自覚していない、普通の人としての状態(0)
B 何らかの社会的地位や成功の状態にある(+)
C かつて成功したが、今はうまくいっていない(+→-)
D 全く成功していない(-)
6 一つを選んだら、ログラインを「主人公は☓☓☓の状態で△△△を求めているが最後に□□□になる」といった程度のシンプルな文章を作ってみて下さい。これは主人公の内的な変化の定義です。
7 あなたの主人公の現在に影響を与えた「過去」について記入して下さい。
8 Q4の答えを踏まえて主人公が「欠けているもの」を手に入れるために誰かから与えられる、(あるいは自らこなさなくてはいけない)具体的な課題やミッション、クエストは何かを考えて下さい。
9 その外的な目的や課題を主人公が最終的に達成するか否かを決めましょう。
10 その結果象徴的に手に入れるもの、ないしは失うものは何でしょう。
11 主人公の目的達成を妨害する中心的キャラクター、「敵対者」は誰ですか。
12 主人公と敵対者の価値観や考え方はどう違いますか。
13 主人公の傍らにいて目的達成を助けるキャラクターは誰ですか。
14 主人公を助ける中心的キャラクターが主人公を助けるのは何故ですか。
15 主人公を庇護したり主人公が成功するポイントとなる力、アイテム、アイデア、知恵などを与えてくれるキャラクターは誰ですか。
16 主人公がQ15のキャラクターから援助を受けるのは何故でしょう。


物語の構造を組み立てる
17 主人公の生きている「日常世界」はどういう場所・環境ですか。
18 その日常に危機が迫っていることを予感させるできごとは何ですか。
19 その日常はどのように具体的に脅かされますか。
20 主人公に行動を起こさせるきっかけとなる「使者」「依頼者」は誰ですか。
21 主人公は行動を起こすことでためらったり、誰かにとめられます。そのくだりを必ずつくっておいて下さい。
22 主人公の行動に対して何かタブーを与えますか。
23 主人公が物語の中で到達する「日常」と最も離れた場所はどこですか。
24 主人公は、そこで直面した問題をどうやって解決し、その結果、主人公はどう変わりますか。
25 主人公が目的を達成するために失ったものは何ですか。
26 敵対者と直接、対峙したとき、主人公は敵対者を理解しますか。和解したり、赦すことは。赦せないとしたら何故、どこが。
27 この物語の結末において主人公の生きる環境はどう変わりますか。
28 これまでの回答をもとにストーリーをグラフの各項目に書き込んでまとめて下さい。
29 以上を踏まえてQ1で書きかけたプロットを第一部第五章のキャンベル・ボグラーの「ヒーローズ・ジャーニー」の12のプロセスに当てはめて整理して下さい。
30 もう一回、あなたのつくった物語を一言でまとめてみて下さい。




【印象に残った言葉】

『白い空間、そして儀礼の参加者そのものが白無垢をまとうことは、再生すなわちウマレキヨマリを意味するのです』

『この作例を書いた学生(女性です)もまた「母との葛藤」を大学での課題としてさえつい書こうとしてしまった点で、既に戦後の少女まんが史の最後尾に意識せぬまま並ぼうとしているのかなと思えて、少しだけ微笑ましく思ったりします』

『つまり、昔話は「子どもの状態」と「大人の状態」という精神的に区別された状態もまた「距離」に変換するわけです』 P.196



【書評】 

物語の「構造」は、着想を締め付けるものではなく、むしろそれを発展させるものである。
ポップソングにメロとサビがあるように、能に守破離があるように、その「構造」は、創造性を高めるためのものであって削ぎ落とすものではないのだ。
それは「原理原則」という表現でおきかえてもいいだろう。
複雑になればなるほど、細部にとらわれて、人間の思考は底なし沼に沈んでいく傾向がある。
その悪魔的な傾向から、われわれがぬけ出す術は、その「原理原則」を理解することである。
「原理原則」によって分解し、適切に分けられたひとつひとつに注力すれば、おのずと道は開けてくるものなのだ。
神秘性という衣で隠して、見えないからこそ美しいのだと言うのも、それはそれで個人の価値観だが、その衣の下をしっかりと直視して、理解した上で評価するほうが、精神衛生上もよいことではないか。
物語の「構造」は常に前進している。
それはわれわれが生きているかぎり発展しつづけるものだからだ。
どんなときにでも、衣をひっぺがした現実にこそ、真実の美があるのだと、わたしは思う。